医療の質マネジメント

 病院では,安全な医療を提供することが求められています.本研究室では,病院との共同研究によって,組織的に業務の質を管理,改善するための仕組みである質マネジメントシステム(Quality Management System,以下QMS)の構築,推進に関する研究に取り組んでいます.

医療の質・安全教育に関する研究

 病院でQMSを推進していくためには,「なぜ,QMSが必要なのか」「QMSを導入・推進するためには,具体的にどのような活動を行えばいいのか」といったことを職員の方に理解してもらわなければなりません.そのため,医療の質・安全に関する教育・訓練を継続的に行っていく必要があります.

 これまでに,医療の質・安全の向上を目指してQMSを実践できる人材を育てるための教育を「医療の質・安全教育」と呼び,そこで教えるべき教育項目を明らかにして,表Aのように一覧表にまとめました.それを用いて,多くの病院で医療の質・安全教育プログラムの作成または見直し,実施を行っています.

 
表A 教育項目一覧表の一部 (出典:梶原千里ら,“医療安全教育項目一覧表の提案”,品質,Vol.42,No.3,pp.106-117,2012)
 

今後は,教育項目一覧表を用いた,効果的,効率的な教育プログラムの立案方法を提案,受講者の受講意欲を高め,理解度を向上させるようなe-ラーニング教材の作成,受講管理およびキャリアパス支援のための情報システムの設計,教育の効果測定方法のあり方などを研究します.

写真:病院での教育の様子

インシデントレポートの分析と対策立案に関する研究

病院では,質の高い医療を患者に提供するために,医療事故の防止活動に取り組んでいます.その一環として,インシデント,アクシデントが発生した際に,その発生経緯や防止策を記載する,インシデントレポートを収集しています.同じような事故を繰り返さないように,インシデントレポートを分析して,効果的な対策を立案,実施していくことが重要です.

本研究では,発生割合の高い医薬品に関するインシデント,転倒転落事例を中心とした,インシデントレポートの分析方法,再発防止策の立案方法を検討しています.

図c インシデントレポートの一例(一部)

質中心経営管理システムに関する研究

 経営管理の方法論として,方針管理,日常管理というものがあります.方針管理(※1)とは,方針(中長期方針,年度方針)を,全部門・全階層の参画のもとで,ベクトルを合わせて重点指向で達成していく活動,日常管理(※2)とは,組織のそれぞれの部門において,日常的に実施されなければならない分掌業務について,その業務目的を効率的に達成するために必要なすべての活動です.両者を実践していくためには,職員が問題解決能力を身につけることも不可欠です.

 本研究では,医療における方針管理,日常管理のあり方,また,問題解決能力を向上させるために,どのような訓練,実践プログラムを策定,実施すべきかを研究しています
※1:日本品質管理学会規格,「方針管理の指針」,JSQC-Std 33-001:2016
※2:日本品質管理学会規格,「日常管理の指針」,JSQC-Std 32-001:2013