災害時医療継続マネジメント

自然災害の発生確率が高い日本では,災害時の事業継続性の向上が喫緊の課題です.本研究室では,災害時における医療の継続性を確保し,安全・安心な社会を実現するために,医療の地域レジリエンスを高めるための仕組みづくりを研究しています.

地域災害レジリエンスマネジメントシステム(ADRMS-H)の導入・推進に関する研究

 事業の継続性を高める方策として,事業継続計画(Business Continuity Plan: 以下,BCP)の策定,またBCPを管理するための事業継続マネジメントシステム(Business Continuity Management System: 以下,BCMS)の構築が提唱されています.

 災害時に,社会インフラである医療が機能しなければ,周辺地域へ多大な影響を与えることは,過去の災害経験からも明らかです.災害時の医療には,「通常診療業務の継続だけでなく,多数傷病者への治療などの災害医療業務の運用も行う」「時々刻々と医療ニーズが変化する」といった,一般的な企業の事業継続性にはない特徴があります.

 この特徴に対応し,災害時の医療の継続性を高めるには,医療機関,自治体,医師会といった関連組織の連携が不可欠であり,地域単位で災害レジリエンスを高めるためのマネジメントシステム(Area Disaster Resilience Management System for Healthcare: 以下,ADRMS-H)の構築が急務です.災害が発生した際に患者へ医療を提供するためには,地域の関連組織が協力しあい,図dのような機能を果たす必要があります.

図d 災害発生直後に医療を継続するために必要となる機能 (発生から24時間~72時間後)

 大きな災害が発生した際でも,滞りなく図dの機能を実施できるようにするために,ADRMS-Hを構築,実装する必要があります.本研究では,埼玉県の基幹災害拠点病院である川口市立医療センターと共同研究を行い,その周辺地域でADRMS-Hを構築することを目指しています.

ADRMS-H導入のための教育に関する研究

 地域へADRMS-Hを導入・推進するためには,関連組織の職員へADRMS-Hの意義,機能,連携方法等の教育,訓練を行う必要があります.関連組織の職員がADRMS-Hの意義や機能を理解できなければ,災害時に地域で連携した診療業務継続と災害医療業務の立ち上げ,運営は困難だからです.

 そこで,ADRMS-Hを導入・推進するために教育すべき内容を明らかにする研究,大きな災害を経験していない職員の危機意識を向上させるような教育方法を明らかにする研究などをおこなっています.

写真:傷病者対応訓練の様子
写真:収集した情報を集約する演習の結果